- 2021-6-17
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こんにちは、中西です。
今回は、超久しぶりにショートショート小説を書きました。
これまで何個か書いてますが、今回は初の
【 実話ショートショート 】
という実験的な試みです。
登場人物の設定以外は、基本的にすべて実話をベースに話を作っています。
とはいえ、フィクションも多少入ってるので、その境界線がどこにあるかの判断は読者さんにお任せします。
そのへんも楽しみながら読んでもらえればと。
では、前置きはこのくらいにして、本編のショートショートをどーぞ!
■実話ショートショートvol.1「変なトラック」
「なんだよ、あれ…。
おいちょっと、見ろよあの変なトラック。」
人手で賑わう週末の都会のド真ん中。
信号待ちをしていたカップルの男の方が、斜め前に指をさして、一緒にいる彼女に向かってそう言った。
カップルが信号待ちをしているすぐ目の前に、奇妙なトラックが止まっている。
「キャハハッ!何あれ?」
彼女のほうも好奇心がくすぐられたのか、物珍しげにトラックを見ている。
「ありえねーな」
男がトラックを見てそう言った瞬間、信号が変わりトラックも動き出した。
「バーイトバイト、バイト探しは高収入!バーイトバイト、バイト探しは…」
まるで壊れたスピーカーのような大音量で、同じフレーズが繰り返し繰り返し、大都会の真ん中を響き渡っていた。
この日、良太と静香は2人で久しぶりに新宿御苑に来ていた。
新宿御苑は東京都が運営する都立公園で、大都会とはとても思えない超大規模な広さの自然だらけの公園だ。
あまりにも広いので良太は以前どれぐらいの面積か調べてみたら、東京ドーム12個分もある広さだった。
大学生の2人はよくデートがてらこの公園を散歩していたが、平日はもちろん、人が多い週末でさえ、園内は「混雑する」と言う状況にはならない。
何しろ東京ドーム12個分の広さだ。東京ドーム1つを満員にするのに4万人以上も必要だが、それはあくまでドームの観客席の部分を満席にする場合。
グラウンドの面積も含めればドームの面積で収容できる人数は4万人どころではない。
つまり新宿御苑を密にしようと思ったら、少なくとも50万人は必要になる計算だ。
さすがにこんなだだっ広い場所で、週末に人がいくら入ったところで園内が人で密になる事は無い。
「ほんとどうかしてるよなぁ、古池薔薇子」
園内の芝生で寝転びながら、良太は言った。
「都知事がどうかしてるのは、今に始まったことじゃないよ」
面倒臭い話が始まるのを予感して、静香はやんわり話をさえぎった。
「それにこうやって新宿御苑が久しぶりに再開できたんだから、よかったんじゃない?」
このままいくと良太の怒りが爆発する気がしたから、静香はむりやりプラスの面を探して良太に伝えた。
しかし逆にその一言が、良太の怒りに火をつけてしまった。
「いや、それがおかしいんだよ!
6月4日から新宿御苑が久しぶりに再開園したけど、今は緊急事態宣言の真っ最中じゃん!」
芝生に寝転びながら、良太の怒りのボルテージが上がってくる。そのボルテージを抑えるように静香が同調して言った。
「そうなんだよね。しかもさ、もともと5月31日までの緊急事態宣言だったのに、それを6月20日まで都が延長したわけでしょ。
なのに都が運営する新宿御苑は6月4日から再開園ってなんなのって感じ。
宣言で飲食店とかいろんなお店に休業要請までしてるんだから、その宣言を延長するなら、都立公園もそれに合わせろよって思うけどね」
静香が同調してくれたことで、良太も満足そうにうなずいている。良太が言った。
「宣言を延長している真っ最中なのに、6月4日から再開園できるんだったら、それまでの長い閉園期間がまったく必要なかったと言うことだろ。
しかし古池薔薇子知事からその説明は一切ない。相変わらずだな、あのタヌキ。」
知事が国民に裏で呼ばれているニックネームを良太も使って言った。
「どうせオリンピックを開催したいからなんだろう。オリンピックを開催するのに、新宿御苑が閉園していたら辻褄が合わないからな。
劇場もそうじゃん。映画館が休業要請されてるのに、なぜか劇場は営業OK。
こんなもん、『劇場を営業停止にしたら、観客のいるオリンピック開催と矛盾する』から、劇場だけOKにしてるとしか思えないよ。
俺が映画館の経営者だったら、古池をぶん殴りたくなると思うけどね。」
良太は物騒なことを言うが、理屈は一応通っていた。良太は続けて言った。
「5月末から宣言が再延長された根拠の説明は全くなかったけど、次の期限の6月20日以降は、オリンピック開催のために再々延長は絶対やらないはずだから。まあ見てな。
でも、6月20日以降に再々延長をしない理由は説明されないはず。
もともとオリンピックの開催基準も、会見で記者が何度質問しても須加総理は答えをはぐらかしていたからね。
基準を具体的に言っちゃったら、その基準に達しなかった場合は開催できなくなるからな。とんでもない奴らだよ。」
「なんで須加総理はそんなにオリンピックを開催したいんだろうね。」
「決まってるじゃん。秋の選挙で勝つためだよ」
「選挙で勝つため?」
「そう、オリンピックが開催されたらマスコミは視聴率のために大いに盛り上げる。実際、メダルも取れるだろうから盛り上がるだろう。
気分が盛り上がると、人は嫌なことを忘れる。場合によっては正常な判断もできなくなる。
そのタイミングで選挙ができるから、いま激しく低下している総理の支持率が、その酔っ払った雰囲気の中で一定数上がる。結果、選挙で有利になる」
「え?オリンピックの盛り上がりを利用して、そのドサクサで支持率を回復させて選挙に勝つ戦略ってこと?そんなにうまく行くかな?」
「わからない。でも須加がそれを狙っているのは間違いないね」
「えー、やばいねそれ」
こんな晴天の気持ちのいい自然公園の芝生の上で、場所に合わない会話が続く。
良太の話を聞いて静香も別の角度から続けた。
「この園内の開園時間が16時半までって言うのもおかしいよね。
通常は18時まで開演してるけど、今は緊急事態宣言中だから16時半までなんだって。
なんだろうね。1時間半、開演時間を短くすると感染率が下がるのかな?」
それを聞いて良太がすかさず突っ込んだ。
「んなわけねーじゃん。
なんだよ『1時間半だけ開演時間が短い』って。その1時間半に何の意味もねーだろ。
単に飲食店とかに時短要請をしているから、辻褄を合わせるために開演時間を短くしているだけとしか考えられない。
園の受付に1時間半短くなっている理由を聞いても、絶対答えられねーぜ。賭けてもいい。」
「あと知ってる?さっきここのホームページを見たら書いてあったんだけど、1時間以内に入園者数が2000人を超えると、しばらく待たせられるんだって!」
「え?どう言うこと?」
「だから、1時間に2000人が入園すると人が多くて密になるからってことじゃない?だからその場合は入園を止めるみたい」
「いやいや、ここがどれだけだだっ広いと思ってるんだよ。東京ドーム12個分だぜ?10万人が入っても密にならねーよ」
「だよねぇ。開演時間が9時から16時半までだから、7時間位でしょ?
7時間ずーっと2000人入り続けても、たった1万4,000人にしかならない。密になりようがないね」
「それどころか、その場合は新宿御苑の入り口に客が殺到してるわけじゃん?
その客をどんどん園内に入れれば密にならないのに、人が多いからって入り口付近で入園を停止させたら、そのせいで入り口付近が人だらけになって、密になりまくるだろ」
「ホントだよね。
1時間半の短縮といい、2000人の制限といい、何の根拠もなく形だけ『やってる感』を見せたいだけじゃないのこれ。」
「絶対そうだろうな。いかにもお役所仕事だ。
そもそも緊急事態宣言を延長している真っ最中の6月4日に再開園するのも変だしな。
それで問題ないなら、それまでずっと閉園していた意味も全くなかったってことだ。
再開園するなら通常の18時まで開園すれば良いのに、なぜか16時半まで。もうめちゃくちゃだな。」
「なんかバッカみたい。そろそろ帰る?」
「そうだな、帰ろうか。再開園したって言うから久々に来てみたけど、なんだかよくわかんなかったな。
まぁでも東京都としては、『新宿御苑はもう大丈夫ですから、皆さんぜひこぞって来園してね』ってことだろうな。」
「うん、開演時間は短いけど、最近オンライン授業で時間余ってるし、また来ようよ」
2人は荷物を持って芝生から立ち上がり、出入り口に向かって歩いていった。
新宿御苑を出ると、すぐに新宿の街につながっている。
帰宅途中、新宿の街は緊急事態宣言の真っ最中とは思えないほど人混みであふれていた。
2人が信号待ちをしていると、近くに荷台の長いトラックが止まっていた。
良太はそのトラックを指差して言った。
「なんだよ、あれ…。
おいちょっと、見ろよあの変なトラック。」
隣の良太にそう言われ、静香もトラックを見た。
そのトラックが目に入ったあと、さっきまでの話が思い浮かんで、笑いがこみ上げてきた。
「キャハハッ!何あれ?」
静香の笑い声を聞いて、良太もさっきの話を思い出した。
「ありえねーな」
良太がそういった瞬間、信号が変わりトラックが動き出す。
そのトラックの長い荷台の側面にはデカデカと、こう書かれていた。
「外出はお控えください。東京都」
P.S
ラストに登場するトラックは実際に週末に私が見たもので、荷台の表記も含め実話です。
都立公園が開園していたので、この表記を見た時は目が点になりましたが笑
P.S2
よかったら今回の話の感想を送っていただけると嬉しいです。
好評なら第2弾をやりたいと思います。
P.S3
以前書いたショートショートはこちら。