- 2015-9-25
- おすすめ記事, その他・雑談, 勉強のやる気アップ法
こんにちは、中西です。
今回は、急遽予定を変更してお送りします。
以下の事情で、配信予定の内容を変更せざるを得なくなりました。ハードル低めで読んでもらえると助かります。。
本当は今回、別のテーマでメルマガを配信する予定だったのですが、そのリサーチ中に個人的にそのテーマについての“とんでもない疑惑”が浮上してしまったからです。。
何の話かというと、よく「人間は物事をやり出すと、どんどんやる気が出てくる」というメカニズムを解説する文脈で「作業興奮」という非常に有名な言葉が使われることがあります。読者さんでご存知の方も多いかと思いますし、私も以前何回か解説で使ったこともある言葉です。
が、結論から言ってしまうと、この「作業興奮」という言葉が、正式な用語として存在していない可能性が浮上したのです。
「正式な用語ではない」ということは、つまり飲み屋かどっかで、誰かが
「なんかさ、掃除とか勉強とか、とりあえずやり出したら、どんどんやる気出てくるやん?これを作業中に興奮していくって意味で『作業興奮』て呼ぶのってどう思う?」
「おーいいね。作業興奮。まるで心理学用語みたいでかっこいいじゃん」
「ほんま?オレ、ネーミングセンス抜群やん。コピーライターになれるかも。えへへ」
・・・てな感じで
「どこかの誰かが、思いつきで適当に付けたネーミング」
である可能性があるということです(;゚ロ゚)
いや、たしかに世の中には「造語」というものがありますから、別に誰かが作った新しい造語という存在自体を否定しているわけではないんですよ。私自身も伝えたいことをわかりやすく解説するため、また自分が考案したノウハウを覚えてもらいやすくするために、これまでたくさんの造語を作っています。だから、造語自体は否定しないのです。
が、もしも一般人が思いつきで考えた造語が、まるで「世界的に有名な学者が提唱した正式な学術用語」かのごとく世間的に広く流布しているなら、これはかなり問題だと思うのです。
実は、「作業興奮」の作用を説明する際に、よく言われるのが「心理学者のクレペリンが提唱した(発見した)もの」という話です。この話、私は今まで何度聞いたかわからないくらいです。
たとえば、著書も多数ある某有名な精神科医の方も、そのように提唱者クレペリンの説明をした上で「作業興奮」について解説されていますし、ベストセラーを多数お持ちの別の精神科医の方も、著書の中で「作業興奮」という正式な用語があるような前提で、この作用がもたらす効果の説明をされていました。
ある有名出版社から出ている勉強法系の本では、「(作業興奮は)心理学者のクレペリンが発見したもので、心理学の世界ではポピュラーな原理です」とまで書かれています。
非常に著名な某脳研究者の大学教授の方は、「心理学用語では『作業興奮』という」との発言をされています。
・・・ここまでそろったら、普通はこの用語が正式なものかどうかなんて疑わないと思います。
これだけのそうそうたる権威ある方々が、皆さん書籍でおっしゃっているのですから、どう見たって正式な用語にしか思えませんし、実際書籍はもちろん日本中の無数のサイトでそのように語られています。
この「作業興奮」というワードを私がブログで初めて紹介したのは、たしか5年前だったと思うのですが、私はその時点ですでに多くの書籍から「作業興奮」という言葉とその作用を学んでいました。権威のある方も含め、複数の様々な専門家の方々が書籍でおっしゃっていたので、もう疑うことなく正式な学術用語だと思い込んでいたのです(今でもそう思いたい・・・)。実際、上記の通り学術用語のごとく説明している専門家の方が多数いらっしゃいましたので、それを信用しておりました。今でも半分は信用しています。
・・・でも、最近は権威ある方や著名人やマスコミが書いている内容でも、基本的にまんま信じないようにしています。この数年で数え切れないほど、権威ある信用できそうな専門家・組織からの発信情報が間違っている(or信用できない)と判明したことが何度も何度もあったので。
ある時期から情報を読むときに「この話は正式なデータや論文や実験などに基づく、根拠のあるところから出ている話か?」を必ず確認するようになりました。
もちろん、あらかじめその人自身の「個人的体験談として」という前提で書かれているならそれでいいのですが、「ただの一個人の体験談でしかない話」や「なんとなくの感覚」や「一般的に言われているから」といった内容のものを、根拠も不明瞭なまま、それがまるで確定した事実であるかのように書く人が非常に多いので、ある時期から注意してインプットやアウトプットの際は、情報の根拠をチェックするようになったのです。(とくに自分から情報を発信するアウトプットのとき)
そんなわけで、用語や話の内容には出来るだけ裏を取るようにしているので、これも一応調べてみたわけです。とはいえ「作業興奮」はあまりにも有名なので、調べるというより、「念のため確認する」という程度でしたが。
今回は、あるテーマでメルマガの原稿を執筆している最中だったのですが、まあ念のため、この「作業興奮」の用語の意味や成り立ち、提唱者の背景を確認しておこうと思って調べてみたのです。しかし、どこにも正式な用語として出てこない・・・(゚o゚;)。
それどころか、用語の存在そのものが怪しくなってきて、調べれば調べるほど「心理学者のクレペリンが提唱(発見)」という部分まで、かなり“盛った話”ではないかと考えざるを得なくなっていきました。・・・・そんな、まさかと。。
19世紀~20世紀初頭にドイツの「精神科医」のエミール・クレペリンという人物は存在していますが、彼がいわゆる「作業興奮」にあたる研究・発見をしたというデータはどこにもありません(私が調べた限り)。
また、そもそも「作業興奮」は彼の造語のように書籍・ネット問わずあちこちで一般的に語られていますが、彼がこの言葉を作った根拠となるデータもどこにも見当たりません。
たしかに彼は、100年ほど前に「作業曲線」と呼ばれる作業量と時間に関する研究を行ってはいます。
またそのクレペリンの作業曲線をもとに、日本人の内田勇三郎が開発した「内田クレペリン精神検査」という、就職試験などで過去60年間に5000万人が受けたという性格や適性を診断する有名な検査もあるのですが、その内容を見てもいわゆる「作業興奮」に該当する言葉は見当たりません。
クレペリンは、研究の結果、作業においては5つの因子(「意志緊張」「興奮」「慣れ」「疲労」「練習」)が影響を及ぼしていると考えたようですが、この5つの中で「興奮」という因子の話が唯一、いわゆる作業興奮のことを指している可能性が高そうです。
そこで調べてみると、この作業に影響を及ぼす「興奮」というのは、「同じ作業を遂行するにつれて見られる没頭状態」のことを指しているとのことでした。先の内田クレペリン検査でも、このクレペリンの「興奮」という因子を参考にして、「興奮の上昇量」という基準を作って性格・適性検査を行っています。
しかしながらこのクレペリンの作業曲線は、信頼性がかなり怪しいようなのです。
たとえば「作業曲線の信頼性が乏しいという欠点があり、解釈は控え目に行う必要があります」(臨床心理士試験対策心理学標準テキスト指定大学院入試対応版著者: 徳田英次)といった話や、心理学者の村上宣寛氏はこの内田クレペリン検査について、「同じ個人でもそのときの状況や体調によって統計学的に無視できない大きな誤差が作業曲線に表れることから、同検査には、ほとんど意味がない」という見解を示しています。
つまり、識者の意見には、前世紀初頭(100年ほど前)のクレペリンの作業曲線自体がどこまで信用できるかわからないレベルの研究結果という見解を示している人も少なくないようなのです。そうなると作業に影響を与える「興奮」という因子の信頼性までもが必然的に怪しくなってきます。
といいますか、そもそも「作業興奮」という用語自体が、一体いつどこで誕生した言葉なのかは、この時点ではまだ謎のままです。
少なくとも私が調べた限り、クレペリンはそのような用語を発案・提唱したわけではないといえそうです。クレペリンはあくまで「作業曲線」というものを研究し、その中で作業に影響を与える因子の1つとして「興奮」(「同じ作業を遂行するにつれて見られる没頭状態」)という基準を設定していただけのようです。
たしかにこの「興奮」の定義が「同じ作業を遂行するにつれて見られる没頭状態」ということですので、いわゆる作業興奮の話に非常に近いといえます。
しかし、クレペリンはあくまで作業曲線を表すときに用いる指標の1つに、この「興奮」という因子の影響を考慮して入れているだけで、これが果たしてそのまま「(いわゆる)作業興奮はクレペリンが発見(提唱)した作用」という話に結びつくのかどうかは疑問です。
作業曲線の研究以前に、彼が「興奮」という因子を研究していて、その定義が現在世間に流布している「(いわゆる)作業興奮」の作用と同じ内容で、かつ、その「興奮」因子の存在を彼自身が研究で突き止めたのであれば、話の信憑性は高まります。
が、本当に彼が「興奮」因子の存在を突き止めたのか、またその「興奮」因子はいわゆる作業興奮の定義と同じものなのかどうかについては、私のリサーチ能力ではわかりませんでした。いかんせん100年前の研究というのもありますが(誰かご存知の方、教えて下さい<(_ _)>)
もしこの「クレペリンが作業曲線の研究において、作業における複数の因子の影響を考慮した。その中の1つに「興奮」という因子があった」という部分から、「クレペリンが作業興奮を提唱した」という話になり、現在日本中で使われている「作業興奮」という用語が生まれたのだとしたら、もとの作業曲線の信用性の問題もありますが、それ以上に、この用語の語源そのものに、私は少し話の飛躍があるように感じて仕方がありません。
これは私のただの勘なのですが、もしかすると上記のクレペリンの研究をかなり大雑把に誰かが解釈して、本か何かで個人的な造語として「作業興奮」という用語を思いつきで一度使用した経緯があり、それがワードの響きとしてもワードの内容的にも面白かったので、一気に学術用語かのごとく認知されて、世間に広まってしまったのではないでしょうか。
いわゆるスラング(俗語)といってもいいのかもしれません。もしただのスラングが、学術用語かのごとく広まっているのだとしたら、これは問題ではないかと思います。
現時点ではまだ私の中でこの「(いわゆる)作業興奮」にまつわる話について、少なくとも以下の疑義が残っています。
1、「作業興奮」という言葉(概念)は、いつ誰が考案した言葉なのか。
2、「作業興奮」という言葉は、本当に正式な心理学用語(学術用語)なのか。
3、「作業興奮」という言葉は、本当に「心理学者クレペリン」が考案したものなのか。
4、精神科医のクレペリンは「心理学者」に該当するのか。
5、クレペリンが作業曲線の研究で「興奮」という因子の影響を考慮したことが、そのまま「作業興奮はクレペリンが発見(提唱)した」ことになるのかどうか。
このブログ・メルマガの読者さんには実は様々な専門家の方や、専門的な深い知識をお持ちの方も多いので、ぜひ以上の私の疑問に対する回答をお持ちの方は教えていただけると幸いです<(_ _)>
※上の私の疑問に対するご意見・ご教授をいただける方は、こちらのフォームからお願い致します。
というわけで、長くなりましたが、結論的には、現時点で私の中では「作業興奮」という言葉は信頼性が低い、いわば“都市伝説”に近い言葉になりつつあります。私はむしろ、ちゃんとこの言葉が存在してほしいと思っているのですが、今のところどうも都市伝説的なワードの臭いがプンプンしております。
(過去、この手の「世間一般に広く知れ渡っているけど根拠が全くない都市伝説だった(もしくはその疑いが濃厚)」と発覚した言葉・言説が何度もあったので(「人間の集中力の持続時間は90分」とか「起きてから3時間は頭がしっかり働きません」とか「コレステロールは体に悪い」とか「1日3食バランスよく食べましょう」とか「牛乳は体にいい健康飲料」とか)、今回も直感的になんとなく過去のパターンと同じ臭いがするのです。。)
ただ、「作業興奮」が都市伝説かどうかの真相はともかく、実は私は別の理由でこの言葉の意味する作用自体は確かに存在していると思っていて、それについては、近日メルマガで書く予定です(それが今日、本当に書く予定のネタだったのですが。。。)
どなたか詳しい読者さん、マジで教えて下さい。もうこのワードの信憑性についてこれ以上調べるのはホトホト疲れましたので 。・゚・(ノД`)・゚・。
ただ疲れはしましたが、一つだけ良かった点があるとしたら、おそらく私は今、日本で一番「作業興奮」という用語について詳しく語れる人間になれたという点です(笑)。
「作業興奮」というワードをここまで徹底的に調べている人物はいないはずです。作業興奮のことなら私にお任せ下さいヽ(´▽`)ノ(よくわからん)
以上、今回は「作業興奮」という用語の存在そのものが怪しいんじゃないか説でした。
※新たな情報が入り次第、追記して行きます。
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