- 2023-5-24
- 経済の話
こんにちは、中西です。
明石順平さんという弁護士が、日本が「借金大国」になった原因について言及されていました。
私は知りませんでしたが、有名な弁護士の方のようです。
▼「日本を増税でも賄えない「借金大国」にした真犯人 1965年までは「無借金国」だったのに…」
(東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース)
https://toyokeizai.net/articles/-/673525?page=4
タイトル含めてツッコミどころが多く、まともに突っ込んだら丸一日はかかりそうでしたが、
とりあえず有名な弁護士さんが、有名なメディアで「事実誤認に基づく間違った情報」を大拡散されているので、指摘しておきたいと思います。
まずこの明石氏の記事は、冒頭からこのような話で始まっています。
(以下、記事より引用)
「国の支出に対する収入源の1つとして税収があるわけですが、今の税収では賄いきれない、しかもこれ以上の増税はできないとなると、国は借金をするしかなくなります。
日本が借金大国であるということは、誰でもどこかで耳にしたことがあるでしょう。
その額(国債及び借入金現在高)は、2022年3月末時点で実に1241兆3074億円にもなっています。借金がどのように膨らんでいったのか、戦後までさかのぼって見てみましょう。」
→まず明石氏は「日本が借金大国である」という言説が
「誰でもどこかで耳にしたことがある」
と解説して、あたかもそれゆえにその言説が「正しいこと」であるかのような前提で話が始まっているのですが、もうこの時点で
「完全に間違い」
でございます。このメルマガの読者さんであれば、「日本が借金大国」などという事実が存在しないことは、高校生や大学生でも知っている客観的事実= ファクト。
明石氏の根本的な間違いは、
「国債=借金=返さなければならないお金」
と考えていることです。まずこれが事実誤認。
確かに、政府が国債を発行すると、「政府の債務残高」は増えるので、この一面だけを見れば
「政府の借金が増えている」
ように見えるわけです。
これを自らの組織の省益のために税収を増やしたい財務省が90年代に
「“国”の借金」
と言い換えたのです。結果、あたかもそれが
「国民の借金である」
ように印象操作に基づくプロパガンダを(1995年の大蔵大臣による財政危機宣言から)政治家と全国民に流布したのが、日本が衰退した全ての始まり。
(「国の借金が多くて、赤字で大変だから、増税しなければならない」という嘘のロジックを成立させることで、財務省の権力の源である税収が増えるため)
また、明石氏はご存じないようですが、戦後、政府が国債を税金で償還(返済)したことはありません。(終戦直後の財産税のみ。これは国会でも財務省が認めた事実です)
確かに、政府の歳出の項目には
「国債償還費」
というものがあるので一見すると、税金で返しているように見えるのですが、
このお金は、最終的に「借り換え」という形で、「新たに同じ金額の国債を発行する」ことで対応しています。
よって、国債は税金では返済されずに、「国の借金」と誤認されている「政府の債務残高」が引き続き増えていくだけなのです。
だからこそ、その債務の残高がずーーっと積み重なって増え続けて1241兆円にもなっているわけですよ。「返済」していたら、こんな金額にはなりません。
「返す必要もないお金」
を一般的に借金とは呼びません。
ちなみに、なぜ返す必要がないかと言うと、借り換えしているのもありますが、本質論で言うと
「国債の発行=通貨の発行」
だからです。明石氏は間違いなく、この基本を理解されていません。
基本的な事実を全く理解していない明石氏のために、もう少し詳しく言いますと
「国債の発行=通貨(お金)の発行=政府の赤字=民間の黒字」
です。これは絶対に誰も否定できない客観的事実になります。この本質を正しく根本から理解できれば、
「国債を発行したことによって増える『政府の債務残高』は、単なる通貨の発行履歴(発行残高)に過ぎない。」
「1200兆円は『返済すべき借金』ではなく(返済した事実すらもない)、『政府がこれまで発行したお金の累計総額』にすぎない」
…ということがわかるはずです。当然こんなものが、
「将来世代へのツケ」
になるはずもありません。明石氏は記事の最後を
「そのツケはそう遠くない未来我々が払う羽目になります。」
と締めくくっているのですが、
国民はこれまでも「ツケ」なんて払っていませんし、これからも未来で払う必要など全くありません。
であれば、その金額が1200兆円であろうが、5000兆円であろうが、1京円であろうが、1ミリも何の問題もないと言うことになります。
明石氏のような一定の影響力のある方は、そろそろいい加減に、これぐらいの事は理解してほしいものです。
戦後78年で積み重なった国債発行額が「1200兆円」という、その金額の大きさにビビっているのがどれほど愚かかと言いますと、
78歳のおじいちゃんが、
「ワシ、これまでの人生で食べたお昼ご飯の合計金額を計算してみたんじゃ。
そしたらの、驚くなかれ、何と
1200万円にもなっとるんじゃー!!
大変だ。大変だ。大変じゃぁー!!」
と騒いでいるのと変わりません。
そりゃ78歳まで生きてたら、ランチ一食500円として、これまでの人生のトータル分を合計したらそれぐらいになりますよね、って話(゚o゚;;
明石氏の記事は、他にもおかしな箇所がいくつもあるのですが、キリがないので、
最後に致命的に間違っている「明らかな事実誤認」の箇所を指摘しておきます。
「実は、戦後しばらく、日本は無借金財政でしたが、1965年度に戦後初めて国債を発行しました。
これは、1964年度に東京で開催されたオリンピックの反動で翌年から不景気になり、税収が不足したからです。」
…こうおっしゃってるのですが、この時点で明石氏は「財務省の回し者」か、そうでないなら、「財務省に騙されている」かのいずれかです。
どういうことかと言うと、財務省は戦後の歴史を都合よく作り替えているんですね。
財務省は、公式の資料として「戦後におけるわが国財政の変遷(名目額)」と言うタイトルで、戦後の日本を
「均衡財政」の時代と、「不均衡財政」の時代
の2種類に分けています。
財務省の「財政均衡主義」とも言いますが、要するに、
「政府の収入と支出は均衡させる必要がある」
という考え方です。別の言い方をすると、「財政の健全化」が大事という思想。
(今回は解説しませんが、「財政の健全化」などする必要は一切ないのはこれまで解説してきた通り。この考え方のせいで、
「プライマリーバランス黒字化目標」
という2002年に竹中平蔵が作成した狂った目標が出来上がり、この目標のせいで、先進国で日本だけがここまで衰退したわけです。
「プライマリーバランスを黒字化する」
なんてことを目標にしているバカな国は、世界で日本だけです。岸田総理はまだこれを信じ込んでいますが)
財務省が、この「均衡財政の時代」としているのが、終戦から1964年までになります。
つまり、「1964年までは財政が健全化していて、借金がなかった」と財務省は言っているわけですが、そもそもこれ自体が財務省の嘘なのです。
普通の事実として、「外務省」も公式の資料で発表していますが、日本は終戦直後の1946年から51年にかけて
「ガリオア・エロア資金」
という借金をアメリカからしているのです。
これこそが、まさに正真正銘の「国の借金」で、日本はこの外国から借りた「国の借金」があったからこそ、戦後の復興が実現できたのです。
(繰り返しますが、自国内で発行する「自国通貨建ての国債」は借金でも何でもありません)
さらに1953年からは、
「世界銀行(国際復興開発銀行)からの低金利融資」
も借りていて、1990年にようやく返済が終わりました。この
「ガリオア・エロア資金」
「世界銀行からの低金利融資」
は、まさに、自国通貨建ての国債とは全く違う外部からの借金であり、これこそが本物の「国の借金」になります。
その本物の「国の借金」が終戦直後から存在していたにもかかわらず、財務省は、この歴史的事実を改ざんして(もしくは都合よく解釈して作り替え)、
「1964年までは借金がなかった均衡財政の時代」
としているわけです。
しかし財務省の資料ではなく、外務省の資料を見れば、それが事実ではない(財務省の嘘)であることが普通に誰でもわかります。
つまり、明石氏が言っている
「実は、戦後しばらく、日本は無借金財政でした」
また、記事のタイトルにある
「1965年までは『無借金国』だったのに…」
という話は、明らかに事実誤認であり、
財務省のプロパガンダを広めるための財務省の回し者か、そうでないなら、
財務省の嘘(都合の良い解釈による歴史の改ざん)を信じ込んでしまった人
のいずれか、と言うことになります。たぶん後者だと思いますが。
いずれにしろ、著名な弁護士がYahoo!ニュースにもよく転載される影響力のある東洋経済オンラインで、
これほどの「根本的な間違い」と「事実誤認に基づく間違った見解」を大拡散させているのは、
一庶民として、さすがに看過できないなという感じです。
それにしても、まだ
「日本は借金大国」
とか、こんな低レベルのことを発言する知識人がいることに、個人的には衝撃を受けております。
とはいえ、やはりまだまだこのレベルの知識人・著名人・経済学者は山ほどいるので、
これ以上の「国民の貧困化」と「日本の衰退」を食い止めるためには、こういう不勉強な人たちの
100%完全に間違った愚かな財政破綻論
を、真実を理解した人たちが、一つ一つ批判して駆逐していく必要があると改めて思います。
「日本は借金大国」
などという全くあり得ないフィクションで、自分の住む国が崩壊したら、たまったものではありませんからね。
それではまた。
※参考:「知識0からわかるMMT入門」(三橋貴明著、経営科学出版)