- 2021-9-11
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こんにちは、中西です。
自己啓発の分野で昔から非常によく使われる話に、
「1万時間の法則」
と言うものがあります。
めちゃくちゃ有名なのでご存知の方も多いと思いますが、知らない人のために簡単に説明すると、ようするに
「1万時間の練習をすれば誰でもプロになれる(一流になれる、成功できる)」
と言うものです。
例えば楽器やスポーツのプロになりたいなら、
「1日3時間の練習を1日も欠かさず10年間やり続ける」
と1万時間になります。
そこまでやると、誰でも一流になれて、成功できると言う法則です。
もともとはイギリスの元新聞記者マルコム・グラッドウェルと言う人物が、
『天才!成功する人々の法則』(講談社、2009年)
と言う本で主張した法則で、これがベストセラーになって世界的にも知られるようになりました。
日本の有名なインフルエンサーや自己啓発の作家さんなどもよくこの「1万時間の法則」を引用していて、
ブログやメルマガでもこの法則を引用する人がよくいて、私もこれまで何千回聞いたか数え切れないほどです。
ただ、私自身は10年以上前にこの「1万時間の法則」の話を初めて聞いたときに、聞いたその瞬間から
「これはもう絶対に怪しい!」
と踏んで、非常に疑って話を聞いてきました。
著名な作家や専門家を始め、ありとあらゆる人たちがこの法則をしょっちゅう引用していて、
あまりにも誰も彼もがこの法則を信じ込んで安易に引用しているのを見て、
「本当にみんなよくこんな法則を信じ込んで、まるで絶対的な真実かのようによく紹介できるよなぁ」
と思っていましたm(_ _)m
このあまりにも有名な法則を、もうとてつもなく、心底怪しんでいたのです。
だからこれほど自己啓発系のネタばかり何千と扱ってきた本メルマガで、ただの1度も「1万時間の法則」を取り上げた事はありませんでしたし、
ましてやこれを絶賛したり、推奨した事はありませんでした。
昔からの読者さんであれば、私が10年以上前から
「わかりやすいキリのいい一つの数字」
を絶対視している法則・言説・テクニックを常に疑いまくるタイプだと言うのはご存知かと思います。その典型例が
「勉強は1時間ごとに休憩するといい」
「休憩は10分間」
…といった巷にあふれている「キリのいい数字」の言説を疑いまくるところから始まり、
それを徹底的にルールから外して完成したのが「短時間きざみ勉強法」だったわけです。
短時間きざみ勉強法の最大の特徴は、「短時間で区切ること」だとよく思われるのですが、もちろんそれもあるんですけど、
それ以上に「1つの数字に固執しない」というのが最大のポイントになります。(30分以内+ 5分以内のルールなど)
同じ理由で、世界中で大人気のポモドーロテクニックも、私はコテンパンに叩いています。
ひどい場合は、何にも知らない人たちから
「短時間きざみ勉強法はポモドーロテクニックのパクリだ!」
なんていう全く話にならない(というか人の話を全く聞いていないのが明らかな)的外れな批判をずっとされてきて、私は完全スルーしていたのですが(2時間の動画で既に解説済みのため、人の話を聞いていない人たちなのが明らかなので)
メルマガ配信10年目の節目で、その辺の裏の事情も含めきっちり暴露したのがこちらの記事でした。
▼短時間きざみ勉強法の考案者が「ポモドーロのパクリ疑惑」の全真相を語った件
「『1つの数字に固執しない』ことが最大の売りの短時間きざみ勉強法を、ポモドーロテクニックなんて言うあんないい加減なテクニックと一緒にしないでください」
と強くお願いしたほどです。
上記の記事を読めば、日本語の読解能力がある人なら誰でも、
「短時間きざみ勉強法はポモドーロテクニックよりも、論理的に圧倒的に上のテクニック」
だと気づくはずです。(ただしポモドーロテクニックの功績自体は認めているのは上記の記事にも書いた通り)
とにかく私は筋金入りで「わかりやすい固定した1つの数字が大流行している」と言う時に、それをとてつもなく疑う人間なのです。
エビデンスがあるならまだわかりますが、ろくなエビデンスがない時はますます怪しくなります。
そしてこの私の疑いフィルターに初めて聞いたその瞬間から引っかかったのがこの「1万時間の法則」でした。
(厳密に言うとこの法則は一応のエビデンスを書籍の中で提示しているのですが、それを「1万時間の法則」のエビデンスとしていること自体を、その研究者のエリクソン教授が著者クラッドウェルに対して迷惑だとまで言って、本の内容の訂正を求めているほどなのです。
グラッドウェルは上記の通り元新聞記者で、学者や研究者ではないので、その辺は適当なのでしょう多分)
なぜこの法則を怪しいと思ったかと言うと、実に簡単な話で、練習と言うのは「質」によっても大きな影響を受けるからです。
例えば「集中力の違い」によっても生産性が変わるのは少し考えれば小学生でも理解できるわけで、
それはつまり「集中力が違えば、同じ時間をかけても結果が大きく変わる」(「集中力が高ければ、同じ結果を出すにも短時間でできる」)と言うことを意味します。
さらに集中力に限らず、創意工夫や効率やモチベーションの違いによって、
「同じ時間を費やしても、結果が大きく変わることがある」
「結果が同じでも、費やした時間が短くなることがある」
のは、誰でもわかるはずです。
当然それが長期間に及べば及ぶほど、その違いは大きくなるわけです。
そもそも生まれながらの才能の違い、適性や向き不向きも大きく影響します。したがって
「1万時間を費やせば誰もが成功できる(プロ・一流になれる)」
などと言う法則があるとはとても思えず、私の中では非常に怪しい眉唾物だと言う形で、初めて聞いた瞬間からずっと疑ってきたのが、この「1万時間の法則」でした。
余談ですが、つい数日前にこのメルマガで
「1日1万歩はデタラメでした」
と言うタイトルのメルマガを配信しましたが、これも全く同じです。
簡単におさらいすると、世界中で長年にわたりずっと言われ続けていた
「1日1万歩歩くのが健康に良い」
と言う言説も、結局海外の研究者が調べてみたら、日本のある時計店が開発した万歩計の開発が先にあり、
その万歩計を普及させる宣伝として「1日1万歩」が広告のキャッチコピーとして出てきて、
それが「わかりやすいキリのいい数字」だったため、いつの間にか健康の基準になってしまった…と言うのが真実でした。
「1万時間の法則」もこれと全く同じで、「1万時間」と言うわかりやすい数字は、やはりとんでもなく怪しい数字だったと言うことが、
プリンストン大学やミシガン州立大学の研究、ケース・ウェスタン・リザーブ大学の研究など、複数の研究で近年判明し、この法則が否定されています。
しかもプリンストン大学の研究はメタ分析ですので、メタ分析で否定されたと言う事は、科学的にほとんど否定されたといっても大げさではありません。
メタ分析と言うのは、多くの複数の論文から信頼できる研究だけを複数取り上げ、それをまとめてさらに分析した結果のことで、科学的な信頼度が最も高い分析手法です。
そのメタ分析の結果では
「練習は習熟の12%にしか寄与しない」
と言うことがわかりました。
他の追跡調査の研究でも、練習の影響度は26%とか3割程度になっていて、ようするに
「とにかく1万時間を費やせば、誰でも一流になれる」
なんて事はなく、習熟に必要な時間は個人によって大きく違い、遺伝や才能や適性といった要素も大きく影響すると言うことです。
確かに「1万時間の法則」は、
「素人でも地道に1万時間努力を続ければ才能が必ず開花して、誰もが一流になれる」
と希望を持たせた点では功績かもしれませんが、事実ではなかったと言うことです。(もちろん継続すれば上達はするわけですが「1万時間の法則」はないor非常に疑わしい、と言う事)
また個人的にはこの法則が否定されたからといって、「一流になれないならやめよう」「成功できないならやめよう」と考えるのも違うと思っています。
この辺はもはや人生観・価値観・仕事観等の違いになるかもしれませんが、
私自身は年齢に関係なく新しいことをスタートして、そのままその分野で一流とか成功者になれなくても、
「未完成のまま死ぬまでスキルを磨きあげていく」
ことに意味があると言う考え方です。多分この考え方は今後も変わりませんし、自分でも生涯実践していくつもりです。
なので、私にとってはむしろ「1万時間の法則」が存在するほうが、どちらかと言うと都合が良かったのですが笑、
間違った法則が世界中で信じられているのも違いますからね。゚(゚´Д`゚)゚。
と言うわけで、10年以上にわたり世界中で多くの自己啓発ファンに信じられてきた「1万時間の法則」は、
少なくとも現時点ではメタ分析を始めとする複数の研究で「間違っていた可能性が極めて高い」状況になってきています。
だからといってやりたいことをやめてしまったり、やりたいことをスタートしないことも間違っていると個人的には思います。
やりたいことがあるなら何歳からでも始めればいいと思いますし、
必ずしも一流とか成功者とかにこだわらなくても、上達していくプロセス自体を楽しめばいいじゃないかと思います。
そういえばナインティナインの矢部さんが、最近50歳を目前にして歌手デビューをしたと言うニュースがありましたが、
50歳から新しいことを始めてはいけないなんて「法則」はありませんからね。
タレントの千秋さんも50歳になって、20年ぶりにポケビと言う昔流行したユニットの歌手活動を復活させると言う話でした。
ウッチャンナンチャンの番組で出てきたユニットの歌が大ヒットして、その後需要がなくなり20年も経ったわけですが、それでもやっぱり自分は歌をやりたいからやるとのこと。
ある評論家の方は50歳を超えて、最近社交ダンスを始めたとおっしゃっていました。
歌やダンスに限らず、楽器でも絵でもスポーツでも小説でも映画監督でも俳優でも語学でも、なんでも始めるのに遅いなんて事はないでしょう。
「1万時間」に固執せずに、自分の心が喜ぶことをやればいいんじゃないかと思います。
それを続けていって、どっちにしろ「完成」することなく終わるのが人生ですから(どんな一流であっても「完成」などないですから、その意味では同じこと)、
「上達していくプロセス」
を楽しむのが、人生を充実させるコツではないかと思いますね。
それではまた。